MMDのぶっこ抜き/リッピングモデルについて

MMD

先日、自分のTwitterのタイムラインに、毎度恒例の「ぶっこ抜き」に関する話題が流れてきた。もう慣れっこである。

その批判に対し、ぶっこぬきモデルを配布しているFlyingSpirits-P本人がリプライで「著作権表示してるんだし、何の問題があるんだね」と反論していたので、部外者の私が乱入する形でリプ合戦をやった訳だが、ふと気が付いた。もしかしたら、多くのぶっこ抜きを行う連中は、なぜ我が国ではあんなに叩かれるのかを知っていないのではないか、と。

そこで、今回のこの記事ではなぜぶっこ抜きに関する歴史と背景を取り上げながら、説明したいと思う

2021年11月下旬にサイトを誤って消去してしまったため、過去1年半ほどのコメントが削除されてしまっています。
その他の内容はほとんど復旧できていますが、コメントは復元する事が出来ず、大変申し訳ございません。

2021年12月20日に改正法への対応や、条文の修正、解釈の修正も実行しました。

繰り返しますが、本記事の法的根拠はへっぽこ法学徒解釈なので、法的アドバイスとしては期待しないでください。

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ぶっこ抜き (リッピングモデル) とは?

日本では一般的に「ぶっこ抜き」とか言われるこのタイプのデータだが、一体何を「抜いている」のか疑問に思う人もいると思う。普通に遊ぶ分には、ゲーム内のデータなど意識したことはないだろう。

ここでの「抜かれる」対象は商用ゲームであり、それこそモンハンとか、Project DIVAとか、アイマスとか、立体的なキャラクターのデータ (3Dデータ) を含むゲームであれば何でも対象となりうる。酷い例だと、アーケードゲームすらクラックされていたり、未発表ゲームやベータ版のデータを元に作られたぶっこ抜きだったりと謎度の高いデータもある。調べると、人型以外でもカーレース系ゲームから車のモデルを抜いたりする例も見られた。

抜かれたデータを使う動機は様々だ。

  • 誰も自分の推しや欲しいキャラ、データを作ってる人がいない。
  • 自分で作る知識、能力が無い
  • 公式に如何に近いかを第一と考える

ただ、個人的には一番最後を理由としている事例が多いように思われる。有志による再現モデルより、ぶっこ抜けば公式モデルそのものである。有志の再現モデルより細かい所まで出来ている (公式品だから) のだから、この問題を意識していない人ならば、好んで有志による再現モデルを使う人は少ないだろう。
(この背景は有志活動な二次創作より、公式を第一とする昨今の文化変化によるものと私は見ている)

一方、ぶっこ抜く側には技術自慢の側面があると見ている人もいる。
確かに後に述べる「ぶっこ抜く/独自フォーマットからの変換ツール」の提供者は技術自慢の側面もある (MITライセンスを付けて著作権表示を要求している) が、一方でぶっこ抜きツールを使い、変換しているだけの連中 (スクリプトキディ、Script Kiddyとも言う) に、技術自慢の側面があるようには思えないのである。

なぜ日本ではマズいのか?

では何故上記のような公式モデルを抽出し、使う行為がまずいのか。多くのWeb記事を探してきて、それを説明しているWebページがそこまで見つからない (「成らぬことは成らぬのです」原理で押し通してる) ので、なぜマズいのか考えてみたいと思う。

契約違反/プロデューサーの呟き

まず、なぜ「成らぬ事は成らぬ事」原理で通されるか、それはあくまで「道徳的」だからではないか?と考えた。つまり、人々はぶっこ抜きを使ってはいけない理由を道徳的なものとしてしか捉えられていないのでは?と。そして、それは「開発者/制作陣の意思」なのではないか?と。

確かに、ゲームの開発プロデューサーのツイッターアカウントとかを見ると、ぶっこ抜かれている事に疲弊しているツイートを見る事がある。下記は私が好きなゲーム、Project DIVA Arcade (現FT/Mega39’sシリーズ) を担当しているプロデューサーの大崎氏のツイートである。

プロデューサーの機嫌を損ねればそれこそ、その他の有志の二次創作も禁止されたり、ゲームシリーズの続編が出なくなるリスクを抱えているが故に、日本人は道徳的な面からもぶっこ抜きは許されない行為と捉えているのだと考えられる。あくまで界隈の繁栄といった道徳的側面であって、だから「成らぬ事は成らぬのです」と説明するしかないのではないか?と。

ついでに言うと、ぶっこ抜かれたくない意思は立派にゲームパッケージにも書いてある事だ。日本においては多くのゲームが、リバースエンジニアリング (データの解析行為) を禁じている。これを破る事は、購入時に発生する契約に対する違反であると同時に、後述の著作権法周りの問題とも重なってくる。

以下解説から法的な内容を含みますが、これは法的なアドバイスではありませんし、実際にこの解釈が正しいのかどうかは分かりません。本当に詳しく知りたければ、読者自身で弁護士でも雇ってください。
(非弁行為・マサカリ回避のための告知。IANAL、TINLAとも)

違法UP/DL等の著作権侵害

これが道徳面以外において、多くの人が主張している法的な面である。データ自体を落とす行為や、それを使う事が著作権違反であるという主張である。確かに、ぶっこ抜かれたモデルデータや、テクスチャ (肌や服の色とか) データはゲーム会社が著作権を有するデータではある。

したがって、それを

  • 勝手にアップロード (公衆送信権侵害、映画の違法アップロードと同じ)
  • 誰かがダウンロード (映画の違法ダウンロードと同じ。2021年以降施行の改正著作権法でプログラムも対象に)
  • 許諾されていない使用方法で使う事 (翻案権侵害)

という問題を指摘する事が出来る。おそらく、ここではカバーしきれないような著作権でも侵害している筈だ。

ちなみに、2021年の改正著作権法では違法ダウンロードの対象にプログラムが含まれ、「知りながら」といった一定の要件の元で刑事罰化されるので、更に問題になる。

その面を抜いても、「ぶっこ抜く側」も、「それを使う側」も民事上の損害賠償を負うリスクを抱えることになる。これらの著作権侵害は被害者が訴えて初めて問題になる「親告罪」に過ぎない。しかし先述の通り、被害者たる版権元は喜んではいない事は分かっていると思う。気兼ねなく使っていたら、ある日、版権元からの訴訟が始まってもおかしくはないのだ。

参考資料
有斐閣「ポケット六法 (令和2年版) 」
ITmedia News「改正著作権法が成立 漫画・書籍など違法DLの対象拡大 21年1月1日に施行

技術的保護手段の回避

更に言うと、著作権法には「技術的保護手段を回避した複製行為は私的利用ではない (意訳) 」とある。つまるところ、ぶっこ抜くと「複製権」の侵害が追加で認定される。

私的利用とは、著作権法30条に定めのある「…個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること… 」という著作権法の例外である。つまるところ、家庭内で個人が使う分には原則自由、という内容で、ツタヤやゲオで借りてきたCDをコピーして良い根拠はここにあったりする。

著作権法上の「技術的保護手段 (コピーコントロール技術)」とは「コピー自体を防ぐ物」である。代表例がDVDやBlu-rayのコピーを防ぐCSSやAACSだが、ぶっこ抜きに当てはめるとPS4のセキュリティはこっちに触れそうである。
著作権法上には別の「技術的利用制限手段 (アクセスコントロール技術)」というのも出てくるが、それは視聴や使用を防ぐ手段 (DRM) であり、モデルファイル自体が独自フォーマット使ったり、暗号化キーを付けているならばこれに該当しそうである。

実際にゲーム内のセーブデータを改ざんするツール (結構有名なCYBER ゲームエディタ) が不正競争防止法違反で代表取締役らが刑事事件沙汰 (書類送検) になった事例もあったりする。
この法律で定める技術的制限手段 (著作権法上の技術的利用制限手段とは異なる事に要注意) は、著作権法上の技術的保護手段 (コピーコントロール技術) も内包している事から、ある程度の類似性は見られるだろう。

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まず「ぶっこ抜き」を行ってる連中は業務として抜いている訳では無さそうだし、ぶっこ抜くコードを書いているのは別の開発連中 (Githubを漁ればフォーマットの解析結果、変換ツールとかを掲載している人がいる) なので、不正競争防止法違反よりは著作権法違反の方が要素としては大きそうな気はする。ということで、先に著作権法の方から検討したいと思う。

「ぶっこ抜く」行為がデータを保護する機構 (PS4のセキュリティなり) を回避していたら先述の通りに私的利用の対象外 (著作権法第30条1項2号、技術的保護手段の回避) であり、ぶっこ抜いた人間は複製権の侵害がこの時点で成立するだろう。

ファイルに暗号化でもかかっていれば、それを解除することになるが、技術的利用制限手段の回避もアウト (著作権法第113条6項、技術的利用制限手段の回避) である。一部例外を除き、「当該技術的利用制限手段に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為」とみなされる。

技術的保護手段を回避して、「私的利用」の対象外になった場合 (著作権法第30条1項2号) であれば、第119条1項を根拠に「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」となってしまうだろう。

しかし同時に親告罪について定める第123条1項は「第百十九条第一項から第三項まで、第百二十条の二第三号から第六号まで、第百二十一条の二及び前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」としている事から、第119条1項が罰則の根拠となる第30条1項2号に対する違反は、版権元が訴訟して初めて問題になるかもしれない。

技術的利用制限手段の回避についてはどうだろうか。これも119条1項を根拠とした罰則になるので、基本的には技術的保護手段の時と同じ立て付けとなる。したがって結論も同じ、親告罪だ。

ではぶっこ抜いた人間も所詮は親告罪の部分しか違反していないのだろうか。
否、実は非親告罪の可能性もけっこうあるのだ。

先ほど述べた親告罪を定める著作権法第123条1項には、第120条の2 のうち、第1号 (プログラムの配布・譲渡) と2号 (業として公衆の求めに応じた回避行為) は含んでいない。つまり、これらに違反すると「三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」を真に食らう事になる。

まずは第120条の2 第1号を検討してみたいが、これについては (読者がそのような界隈に入ろうとするのも困るので) 詳しくは書けないが、ぶっこ抜きを行う界隈においては、ツールが内々に交換されている事も多い事を述べておく。参考として挙げるプロジェクトセカイは2021年末現在、 ぶっこ抜く/独自フォーマットからの変換ツールは一般公開されていないが、ぶっこ抜いて配布している人は増える一方だ。実経験と推測から述べてしまうと、おそらく内々にツールが広がっている可能性が高いと考えられ、第120条の2 第1号違反に該当する可能性が出てくる。

続いて 第120条の2 第2号の検討に入るが、これは「業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避又は技術的利用制限手段の回避を行つた者」の「業」が著作権法でどのように解釈されるかによって、これに含まれるか否かが分かれてしまう。一般の法律用語としての「業」は「反復継続し、社会通念上、事業の遂行とみることができる程度のもの」としており、正直な事を言うと私には解釈しかねる部分になってしまう。

ただ、「公衆からの求め」に関しては、Youtubeにおいて「次はどの曲をぶっこ抜いてほしいですか?」みたいなアンケートを取っているぶっこ抜きを行っている人を見かけているので、第120条の2 第2号に該当するかについては50%ぐらいの自信しかないと思う。

あくまで技術的保護手段/利用制限手段を根拠とする論理は「ぶっこ抜く側」が著作権法上の権利侵害になる根拠に過ぎないが、いずれにせよ、ついに一部条文の解釈によっては刑事罰を食らうような事案になってきた訳である。

そんな違法な可能性の高いデータを、果たして使う事が正しいのか。

参考資料
有斐閣「ポケット六法 (令和2年版) 」
B-CAS「法律について
日本経済新聞 「違法ダウンロードに罰則、DVDリッピングも違法化

二度目になりますが、ここまでの説明は法的なアドバイスではありませんし、実際にこの解釈が正しいのかどうかは分かりません。
本当に詳しく知りたければ、読者自身で弁護士でも雇ってください。

まとめ -なぜ日本では使ってはいけないのか?-

ぶっこ抜く人間は日本においては少ないと思うが、一応最後に「どの立場がどれに触れるか」をまとめようと思う。日本でぶっこ抜きがいかなる理由であれ、許される事は無い事を、私は強調したい。

ぶっこ抜く側

  • 開発陣、プロデューサーの意向に反する
  • ソフトウェアを購入した時の契約に反する
  • 著作権のうち、公衆送信権と翻案権は確実に侵してる
  • 技術的保護手段の回避で私的利用の範囲から外れている
  • 技術的利用制限手段の回避で著作権侵害を行っている
  • △ – 界隈内でのツール交換、配布を行っている可能性が高い
  • △ – 業として公衆からの求めに応じてぶっこ抜いてる…?

△のついている部分については確信が持てない部分にはなるが、逆にこれらの違反が認定されると非親告罪の刑事罰が待ち構えている。

ぶっこ抜きを使う側

  • 開発陣、プロデューサーの意向に反する
  • ソフトウェアを購入した時の契約に反する
  • 著作権のうち、公衆送信権と翻案権は確実に侵してる
  • 違法DLで私的利用の範囲から外れている

一応、使う側は親告罪になっている所だけやらかすので、即逮捕みたいな事は無いと思う。とはいえ、犯罪行為になっているのは間違いないので、辞めた方がいいだろう。

これらの理由を私は日本ではぶっこ抜きを使ってはいけない根拠としているが、中には付け加えたい人もいると思う。コメント欄でコメントしていただければ、原則公表するし、それに合わせた修正も行うつもりだ。(実際、このまとめはそれを反映したもの)

なぜ英米では許されているのか?

使っちゃいけない理由には道徳的な面から、中には違法となりえそうな根拠は色々とあるが、法律というものは日本の法律が世界中に通用する訳では無い。

その中でも、アメリカ (とイギリス) は文化的にも大きく違えば、更に言うとこの二国にある厄介な考え方「フェアユースの法理」 (英国ではフェアディーリング) という物が存在して、ぶっこ抜きが日本における「同人活動」程度にしか扱われていないのである。

文化面 -改造する事は権利である-

アメリカでは、改造する事は文化の一部を成している面がある。

我が国ではゲームはコンソール機と共に発展してきた。したがって、改造行為はそこまでは無かったとされる。しかし、海を越えた向こう側ではパソコンこそがゲーム端末であったのである。そんな事もあって、ファイル構造を解析し、勝手に機能を追加したりというのが日常茶飯事だったのである。

詳しくは、Googleで「MOD文化」とかググれば出てくる。ただ、これはMinecraftやCS:GOのようなゲームソフトが「Mod (有志による改造パッチ) 」を許している事からも見られるだろう。オリジナルのデータを加工していたり、サポートの問題や著作権の問題等を抱えながらも、それより作ってしまえと言う考えで結構発展してきた面がある。というか、CS:GOに至っては当初はただのModの一種に過ぎなかったものが、単独のゲームにまでなったパターンである。

(8月17日追記) MinecraftのMODらは単なるパッチに過ぎず、違法性を有するデータを持ち込んでいないから違うのではないか?という意見を見かけたが、確かにあのゲームはそうである。一方、この記事にあるTotal Conversion系やProject DIVA XからF2に移植したMODのような、純粋な機能拡張ではなく著作権を侵害したデータの移植を行っているMODもあり、そのようなものは常に米国でも「著作権の問題」の議論の対象となってきた。

もちろん、中には否定的な会社もおり、そのような場合はセキュリティや暗号化をかける訳だが、そのようなソフトでも改造しては封じられるイタチごっこで成立してしまっているのだ。

日本における同人活動と同じで、やってたら違法ながらも文化になっていた訳である。

話を戻すとして、日本で問題となる「ぶっこ抜き」は、このMod行為の一環として、彼らは行っているように私には見えるのである。

先ほど「Githubを漁ればフォーマットの解析結果、変換ツールとかを掲載している人がいる」と言ったが、これらのツールの開発者が目的としているのはMod開発だったりする。ぶっこ抜きモデルはその過程で生まれる編集可能なモデルファイルをMMD用に変換して生まれる、副産物に過ぎないのだ。

法律面 -フェアユースは万能?-

とはいえ、Modも違法性と表裏一体であるとさっき表現した。
では、どのようにしてぶっこ抜きを行う人は合法であると主張しているのだろうか?

三度目になりますが、ここからの説明も法的なアドバイスではありませんし、実際にこの解釈が正しいのかどうかは分かりません。
本当に詳しく知りたければ、読者自身で弁護士でも雇ってください。

そこで、まさに今回問題になった「FlyingSpirits-P」本人の動画を一例に取り上げてみたいと思う。
(このスクリーンショットは、リプ合戦後に撮ったものであるので日本法で違法である旨を表示している)

(このスクリーンショットは、リプ合戦後に撮ったものであるので日本法で違法である旨を表示している)

この中で一番特徴的なのは、下記のポイントである

  • Credits (原著作者表示) を行っている
  • このコンテンツがフェアユースに該当すると主張している

ここで、冒頭で厄介だと言った「フェアユース」が出てくるのである。

フェアユースの法理とは、アメリカ合衆国内における著作物を利用しても要件に当てはまっていれば公正な利用として著作権侵害とされない「判例」である。日本語では「公正使用」とか訳される。

“Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright.”

17 U.S.C. § 107

フェアユースは、「批評、解説、ニュース報道、教育、研究、調査等を目的とする」利用に適用されるが、「等」とあるように、フェアユースになるかどうかは

  1. 利用の目的 (営利性が無いか?)
    1. 元の著作物の市場との衝突が少なく、元の著作物には存在しない付加価値をつけた利用 (例. パロディ) だと、商用でも認められる事がある
  2. 著作物が芸術性を帯びるか (学術論文/機能性を目的としているか?)
  3. その「著作物の使用」が自身の制作物において「必要な量」か? 
  4. その利用により、市場に悪影響を及ぼすか?

が判断の基準となる。

上記の内、訴訟においてフェアユースか判断する際は、1と4が最大の争点となる。1の目的が非営利である場合、原告 (権利保持者) が4において「市場への悪影響」を証明する事で覆せるのである。逆にいうと、米国法では、非営利である限り、余程の事情がないと何をされても文句を言えないのである。

これは日本で同人が黙認されているのと同じような効果を果たす。ただ、ここからが問題点であるように私には感じられる事を述べる。

欧米では非営利であれば著作物をアップロードしても原則的にフェアユースであって、フェアユースを主張しておけば、許されると誤解されている面がある。おそらく、ぶっこ抜きを行う海外の者は、「無償」なんだし、キチンと原著作者は明記しているのだから、フェアユースなんだと思ってる節がある。映画とかの違法アップロードコンテンツには、大体この表記を付けているぐらいである。(もちろん、そうではないコンテンツも含まれる事を留意すべき)

実際、FlyingSpirits-Pの反論には「ゲームから抜くことは違法ではない (おそらくDMCAのSection 1201の例外を根拠としてる) 」「無収益である」「版権元はキチンと表記している」という理由が見れる。

I don’t know if you speak English or not but I’ll let you know, Ripping stuff from games is not illegal, only making money from them is and I’m not making money from them.

I put all the corrective copyrights and credits.— FlyingSpirits-P (@FlyingSpiritsP) August 14, 2020

とはいえ、フェアユースは裁判で主張して争い、確定して初めて成立するものであって、掲げれば許されるための免罪符ではない。

一方で、アンフェアな使用 (著作権侵害) と認定されるには著作権者が訴えないといけないのである。インターネットに上がっているコンテンツに対しては、著作権者がDMCA (デジタルミレニアム著作権法) に基づく取り下げ要請を行い、それにフェアユースを主張する側が反発し、それで訴状が届いて初めてフェアユースか否かの争いが始まるのである。

もちろん、多くの場合、訴訟にまで発展する事は少ない。大体の場合、DMCA通報を食らえばMOD文化の通例である「しぶしぶ諦める」を選ぶことが多い。彼らも、あくまでファン活動の一環にすぎず、公式たる著作権者を怒らせたい訳ではないからだ。

したがって、ぶっこ抜きモデルを米国 (英国でも似たようなものではあるが、詳しくは解説しない) でアップロードし、ダウンロードし、使う分には版権元が何もしていない以上、日本における同人活動と同じ、「グレーゾーン」に過ぎないのである。

いうなれば、親元が定められた方法で怒らない (DMCAに基づく取り下げ要請が発出されない) 限り「米国 (と英国) では許されている」である。

どうなっていくのか?

そもそも論として、ぶっこ抜きを行う連中がアメリカやイギリス等のフェアユースの法理を持つ国に住んで居るのかどうかの疑問が残る。

とはいえ、彼らは誤ったように見えるフェアユースの法理を盾に、DMCAに基づく動画の取り下げ通報でもされない限りはグレーゾーンのまま、配布し続けるだろう。米国で版権元が「適切に」怒らない限りはグレーだから、海外でぶっこ抜き、そして使われる分には我々は口出しできないのである。
これまで通りであるならば、版権元は何もしないから、結果的に配布が止むことはないし、かえって増えると私は考える。

一方日本人コミュニティは?

その中で日本人MMDコミュニティはぶっこ抜きに対し、徹底的な反対運動を続けている。確かに日本の価値基準から見れば違法だし、版権元の考えに沿う正しい事ではあるかもしれない。私自身も、日本に居住する者として、ぶっこ抜きは許されない行為であるという認識の元、本記事を書いている。
(実際、ぶっこ抜きしか存在しないProject DIVAモジュールを日本で合法的に一つ作り上げた。)

ただ、だからって外国人に対する排斥的思想を持ち始めたり、誤って使う者がいれば改善を促す前に界隈からいきなり追放したりと、目に余る行為を行っているように見える。

彼らの動きが現地の法律上はグレーゾーンに過ぎないと分かった今、我々日本人が外国人の行う「ぶっこ抜き」に怒っても仕方がないように思う。

版権元が適切な対処を行えば良いだけであり、権利を持たぬ外野が騒ぐ事ではない。

そして、彼らにとっては「ぶっこ抜き」を使う事は、版権元が怒らない限り、我々の行う同人活動と同等なのであるのだから。

我々日本人が外国人に対し、我が国では違法なんだから、お前らもぶっこぬきモデルを使うな!と押し付けたとする。しかし、それはオタクの中でも議論の対象となる「海外の二次元ロリ規制に基づいて我が国も規制せよ」という論理に近い所を感じる。

「海外基準の二次元ロリエロ規制」は文化の押し付けだ!と怒るくせに、「ぶっこ抜きの禁止」はグレーのままの外国にでも押し付ける。これでは、ダブルスタンダードも良い所である。

日本人は、何をしていくべきか?

私が思う日本人MMDコミュニティがこれから進めていくべきポイントは以下であるように思う

  • 外国でのぶっこ抜きに対して攻撃しない。グレーゾーン行為に過ぎないかもしれないから。
  • もし出来るならば、ぶっこ抜き提供者に対して日本では違法行為と教える。
    • ついでに規約にこれは日本では使ってはいけない旨を追記するよう要請する。
  • 日本国内では「なぜぶっこ抜きはいけないのか」を告知、広める。

幸か不幸か、今回この記事を書くきっかけとなったFlyingSpirits-Pとのリプ合戦の結果、彼はモデルのダウンロード項目に「日本では違法である」旨をYoutube上の全動画詳細、コミュニティ投稿に書く事に同意してくれた。それを追う形で何名かのぶっこ抜き投稿者も似たような事をやり始めている事を確認している。

最後に

確かに日本では100%違法だし、日本人の価値観には明らかに合わない行為だ。嫌うのは仕方ない。
一方で、海を越えた向こうでは同人活動と同程度のグレーゾーンに過ぎない行為なのだ。

もし、この記事を読み終えて怒りしかなかったのだとしても、事実の一つとして「海外の人の頭の中を知れた」と思ってくれたらいい。それを嫌うのか、それとも納得するのか、はたまた賛同するのかは、各読者自身が考えてほしい。

ただ、私の意見として、外国の人間を日本の法と道徳に合わないからって潰すのは誤っている。
そして、一人をつぶしても後継は生まれる。完全に消すことは、版権元が怒らない限り、無理だ。

ならば、私としては最大限争いにならないように、互いに文化を嫌いであっても尊重しあう、それしかないのではないだろうかと思う事案であった。

多分文句があったりマサカリ投げたい人間もいるかもしれない。
Twitterで「あの記事は」って言う批判のされ方をすると、こっちもせっかく良い意見であっても追う事も出来ない。
是非、コメント欄へどうぞ。

MMD
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コメント

  1. アバター画像 一座新米役者 より:

    1つ御聞きしたいのですが

    著作権法の複製権をご存じでしょうか?

    複製権とは、著作権制度において全ての著作物を対象とする最も基本的な権利で、著作物を無断で複製されない権利である。著作権法において複製とは、手書き、複写、写真撮影、印刷、録音、録画、パソコンのハードディスクやサーバーへの蓄積その他、どのような方法であれ著作物を形のある物に再製すること(有形的再製)を指す。したがって、複製の結果出来上がった複製物は物に固定されている必要があるが、複製の対象となる著作物の方は必ずしも物に固定されている必要はない。例えば、演劇用の脚本の複製といった場合、脚本を直接コピー機を使って複写した場合だけでなく、その脚本に基づいて上演されたり放送されたりした演劇(無形的再製)をCDやDVDに録音、録画する行為も脚本の複写にあたり、複製権が及ぶことになる。また、建築の著作物については、その設計図に従って同じ建築物を建てれば、建築の著作物の複製となる

    つまり手書きであろうが、著作権法では複製権の侵害に当たります

    MMDをはじめとする2次創作全般は多かれ少なかれこの複製権に抵触しており
    仮に海外のモデラーがリッピングしたであろうものを使っていても
    基本的にはMMDをはじめとする2次創作全般とほとんど意味合い的には変わりません
    しかもニコニコ動画等では広告収入と利益も発生します。

    つまり貴方の趣旨は解りますが、正義振りかざしてリッピングの疑いのあるものとして断罪してますが(どうやって証明するのか疑問)やっている事は
    海外のモデラーより悪質だと思います。

    後、リッピングを擁護するわけではありませんが、コンシューマーゲームのデータを何等の方法で抜き取り、その抜き取ったデータがそのままMMDで使用可能だと思ってますか?

    例えばVRMからPmxに変換しただけでは殆どのモデルは使えません
    構造が違うからです。
    コンシューマーゲームのデータをMMD等で使用できるようにするには想像を絶する様な苦労があるかもしれません。

    例えば、海外では3Dモデルを有料で販売サイトもあります
    その様な有料のものはリッピングの手法で複製された可能性は高いとは思います
    しかしながら、正規のサイトで誰でも入手出来る様な無料配布の3Dモデルは前出した様な苦労をしてまで、制作したものを無料で軽々しく配布するでしょうか?

    上記の英文も日本の法律の具体的に何に違反するとか書いてません。
    つまりこの方も憶測の域を超えません。

    著作権法は一部を除いて親告罪です
    親告罪は文字通り告訴しないと発生しません
    しかも、訴訟が起きても司法による裁判の結果次第、または取り調べの段階で立件されない場合も多々あります
    つまり、司法の判断の結果上告等もありますから判決が確定するまでは罪ではないのです

    民主主義社会の司法では原則、疑わしきは罰せずです。
    証拠もなく、実証する手段もなく、憶測で断罪している方の多くはこのサイトを拠り所にしております。
    これは、下手したら侮辱罪、名誉棄損罪に抵触しますので
    例え後から、使用したものが罪に問われたとしても、その名誉棄損の発言当時の状況で判断されますので、軽々しくこれはリッピングだから犯罪だ!等と発言したりしますと
    名誉棄損や侮辱罪に抵触します。

    そしてサイト主様はそれを煽った、扇動したと判断されるかもしれません。
    私の言う事が信じられないなら最寄りの法律事務所にでも御聞きになってみたら良いとおもいます。

    貴方様が煽った結果特大のブーメランとして、手書きであろうと複製権の侵害と言う事になりますのでMMDをはじめ2次創作全般に影響を及ぼすかも知れません。
    以上です。

    • アバター画像 そら より:

      【本コメントは法的助言を目的としたものではありません】
      コメントいただき、ありがとうございます。
      一法学徒の認識できる範囲でのコメントである事は予め申し上げておきます。

      「MMDをはじめとする2次創作全般は多かれ少なかれこの複製権に抵触しており」

      <<全ての二次創作が根本的には複製権・翻案権侵害による著作権侵害の可能性が高い事は一般に知られている通りです。一方で、オリジナリティを有する部分 (同人誌であればストーリー、3Dモデルであれば顔の造形など) に対して創作性が見られることから著作権が認められる判例が東京地裁から出て、かつ知財高裁も控訴棄却している事も注目する必要があります。

      https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2010/08/news144.html

      「正義振りかざしてリッピングの疑いのあるものとして断罪してますが」

      <<Twitterを確認させていただいたところ、私の記事を引用した別の方と誤解されているようです。本記事を書いた私 (そら) と、MrWhitefolksのモデルをリッピングの疑いがあると投稿した方 (ノン様) は別です。本記事できっかけとした事例 (Project DIVAのリッピングモデル) は、実際にリッピングモデルである事を認めています。

      「コンシューマーゲームのデータをMMD等で使用できるようにするには想像を絶する様な苦労があるかもしれません。」
      「正規のサイトで誰でも入手出来る様な無料配布の3Dモデルは前出した様な苦労をしてまで、制作したものを無料で軽々しく配布するでしょうか?」

      <<こちらに関しても、本記事で書かせていただいています。MMDで使用できるようにする事に関しては「MOD制作」の過程で解析された結果として作られた変換ツールを用いて変換していることから、確かに一筋縄ではない事は事実です。一方で、労力があるのに無料配布するかの疑問に関しては、米国・英国のフェアユーズ・フェアディーリングの営利性に関する要件の観点から、無償配布していると考えます。有償配布すると訴訟時に反論する根拠が薄くなる事から、そうしていると考えられます。また多くが「ファン活動」としてリッピングモデルを公開しているという性質も検討する必要があります。彼ら自身もリスクを理解し、結果として無償配布しているのです。その「沸点」が日本と国外で違うだけです。

      「上記の英文も日本の法律の具体的に何に違反するとか書いてません。」

      <<本記事を読んでいただければ分かるかと思いますが、リッピングを行う側の問題点として非親告罪に該当する著作権法違反の可能性が高い事は書かせていただいております。またリッピングを使う側も、日本法において、民事的、刑事的 (どちらも告訴、起訴が要件となりますが) に危険である旨も書いております。一方で、海外に居住する者は日本法が適用されないからこそ、彼らの国では合法となりうる可能性があって、そこの見解不一致によって論争が起きている事を本記事は書いているものです。

      「民主主義社会の司法では原則、疑わしきは罰せずです。…軽々しくこれはリッピングだから犯罪だ!等と発言したりしますと名誉棄損や侮辱罪に抵触します。」

      <<疑わしきは罰せずは刑事訴訟に限られ、民事訴訟においては厳格に適用されていません。リッピングは民事・刑事両方で問題になると考えられます。リッピングの批判に関しては、認識できる範囲には限られますが、ダウンロードして出てくるファイルにその証拠が残されていたり、配布サイトにRipの表記があるなど、外形が形成されている事案が多いことから、ある程度の信頼性を持って行われているものと考えます。また、「断罪された側」の多くが国外に在住するものですが、日本以外の多くの国では「事実」である場合、名誉毀損は成立しない場合があります。

      私からの意見としては、本記事を読めば分かる事をコメントに書かれているところから、本記事を読まれずにコメントされているように感じます。批判される以上はソース・根拠・判例等を提示していただき、その上で論理的に批判していただけると本記事の改善にもつながります。国外の法源、法の違いであったり、著作権法・二次創作に関する判例などをお読みいただき、その上で行われる批判意見は受け止めますが、この批判は調査不足であると思わざるを得ません。

  2. アバター画像 oym より:

    業としての一文は 非弁活動事件などでよく争われるのですが 金銭や物的報酬を得たかは問題ではなく 繰り返し頻度など態様によって判断されるものです

  3. […] MMD のぶっこ抜き/リッピングモデルについて | とあるミクファンの備忘録 […]

  4. […] [Click aquí para ver la entrada] […]

    [追記] このコメントは可読性向上を目的とし、一部編集されています。(hrefの追加)
    [p.s.] This comment was modified to improve readability. (Added href)

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